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One+Only(4my dearests) ブログトップ

ある女の一生  In a memory of my grandma [One+Only(4my dearests)]

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彼女は北関東の海辺の街に
昭和元年に生まれた

父親は大工で、大酒呑み
優しかった母親は彼女が14の時
彼女の妹を産んですぐに亡くなった

彼女には弟が二人と生まれたばかりの妹がひとり
14の女の子は
毎日毎日、弟たちの母親代わり

貧しくて、どうしようもなかった
ミルクが買えなくて
乳飲み子の妹には米のとぎ汁を与えていた
冬のある朝
小さな妹は
彼女の懐の中で冷たくなっていた

幼くて無力な14の少女は
小さな妹のためにどうすることもできなかった

下の弟も、まだ2つだった
彼女を母親と思っていつも恋しがった
弟が泣くと、酒乱の父親が怒って暴力をふるった
彼女と弟二人は
真冬の納屋で、三人で震えながら何度も夜を過ごした

父親は生活費まで呑んでしまう
金を出せと、彼女を殴った
弟たちは隅で震えている
父親が酔って寝てしまうと
彼女は一升瓶に水を混ぜた

裏山に行って上の弟と薪を拾う
上の弟は8歳だから、彼女の手伝いをよくしてくれる
下の弟はまだまだ甘えん坊で
彼女は学校に背負っていくしかなかった

父親は得体のしれない女を家に連れ込んだ
でも女は、一切彼女たちには目もくれなかった

弟を背負って登校すると
同級生の男の子たちが彼女をからかった
弟が授業中に泣けば
うるさい、でていけと何度もなじられた

それでも彼女は一生懸命に
弟たちと生きていた
負けてたまるかと歯を食いしばった

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やがて戦争が始まって
空襲におびえる日々
美しい少女はおしゃれもできずに
砂浜で、犠牲になった同級生たちの
ばらばらに吹き飛ばされた遺体を拾い集めていた

近所のおばさんが
ある日彼女に結婚話をもってきた
そこから30kmほど離れた海辺の街の
6人兄弟の長男との縁談

彼女は美しかったから
別の商家からの縁談もあったのに
そのおばさんは、半ば脅すように彼女を弟たちと故郷からひきはがし
その海辺の街にお嫁に行かせてしまった

お嫁に行けば、幸せになるかも?
下の弟は泣いて行かないでと懇願していた
上の弟は俺に任せろと幼いながらに頼もしいことを言ってくれた
弟たちのことは心配だったけれど

夫は世間知らずの箱入り息子
彼女にやさしくしてくれたけど
世事に疎くて、学問にばかり興味があった
彼の兄弟たちの世話を毎日毎日来る日も来る日も
彼女の苦労は変わらない

夫の姉たちは家事に無頓着で自分たちのことばかり
お嫁に来たというよりも、女中に来たみたいだった
彼女はたどたどしい字で毎日日記を書いた
悔しくて悲しくて
文字が涙で滲んだことも、何度もあった
そして娘が二人生まれ
やっと彼女には、心から信頼できる存在ができた

夫の姉たちや弟たちもそれぞれに家庭を持ち
家を出て行った

娘たちは彼女の味方になり、
彼女にとって娘たちは心のよりどころになった
やっと小さな、そして大きな幸せを感じた

娘たちを連れて街中に買い物に行くと
美しいとほめられるのはいつも母親である彼女
娘たちは言われないのに
おきれいです、と言われるのはいつも彼女

苦労ばかりでろくにおしゃれもできなかった
結婚写真は美男美女でほんとうに美しいが
それぐらいしか、着飾ったことがなかった

やがて娘たちは成長し、上の娘は家の後をついで
下の娘も近所に嫁いだ
彼女の味方は常に近くにいた
弟たちも立派に成長し
上の弟は大工になり彼女の家を建ててくれて
下の弟は法律家になった

上の娘がよい青年と結婚して
娘婿は義母にほんとうによくつくしてくれた
やがて彼女に初めての孫娘が生まれた

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彼女はうれしくてうれしくて
毎日のように孫の服を買って帰ってきて娘をあきれさせた
やがて孫息子も生まれた
孫娘が母親から離れないので
彼女は孫息子と毎晩一緒に寝た
幸せな日々が始まった
やっと幸せになれた

下の娘にも女の子と男の子が生まれて
彼女には孫が4人
それぞれに個性があったけれど
彼女にはどの孫もいとおしかった

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一番上の孫娘は
思い入れもひとしおだったが
構われることがきらいで
反抗期には彼女につらく当たった
彼女を泣かせてしまったことに
孫娘はとても心が痛くなったことがある

彼女は孫娘が幸せな結婚をして
幸せな家庭を築くのが見たいといつも願っていた

老後の彼女は好きなことをしたり
友達と旅行に行ったりと、人生を楽しみだした
穏やかな日々が始まった

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でもある日
踏み台から足を踏み外して頭を打った
骨が折れて動けなくなった
若いころに働きすぎたせいで
骨が人一倍もろくなっていた
やがてまた動けるようになったけれど
体の衰えは目に見えていた

孫娘より先に孫息子が結婚して
彼女には待望のひ孫が二人生まれた
どちらも男の子だけれど
心の優しい子供たち
彼女はいとおしくてしかたがなかった

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そして長年連れ添った夫が亡くなって
彼女は本当に、自由になった
これから人生を楽しめるという時に
体に力が入らなくなってきた

夜中に孫娘を起こして
トイレに連れて行ってもらう
支えられないと歩けなくなって
体は日々弱っていった

上の弟が亡くなった
憎んだ父親と同じ職業を選び一代なして
姉孝行をした弟が先に

彼女自身はやがてある日病院に行くと即入院と言われ
それから2年半ずっと病院暮らし
家に帰りたい、帰りたいと言い続けた

家に帰りたいという願望が
やがて早く死んでしまいたいという願望に変わった

入院中の彼女の苦しみはみんな理解していた
苦労ばかりの人生を苦しみで終わらせてほしくないと
家族は切に願った

娘たちは毎日彼女に会いに行ったけれど
彼女は寂しがってときどきわがままを言って
娘たちを困らせた

痛い、痛いとうなされる彼女の足をマッサージしながら
孫娘は黙って謝り続けていた

あのときうるさいといってごめんなさい
あのとき冷たくしてごめんなさい
あのときわがままを言って困らせてごめんなさい
家族を作って安心させることができなくてごめんなさい
半端なままでごめんなさい
ひ孫を見せてあげられなくてごめんなさい

もうほとんど意識が無くなった彼女が
ある日ふと、正気に戻って言った
「夢を見たよ。お前が、女の赤ちゃんを抱っこして、見せに来た」
お前のことが心配だね。
お前のために、ほら、あそこの土地をあげるよ。

そして寒い寒い12月の最後の日の
きりりとした透明の朝に
彼女は静かに逝ってしまった

彼女の人生はそうして終わった

葬式にはたくさんの人が来た
持っているものはなんでも他人に惜しみなく与えていた彼女だから
涙を流す人があまりにも多くて

こんなに美しいご遺体は本当を言うとめずらしいと
死に化粧を施してくれた人が言った

棺の中の彼女は
たくさんの花に埋もれて
本当に美しかった

夫の弟の一人が
いつまでも棺のそばを離れなかった
きっと彼にとって
美しく優しい兄嫁は
永遠の憧れだったのだろう

彼女の冷たい額に触れて
さようなら、とつぶやいた孫娘は
彼女の棺が荼毘に付され窯の扉が閉じられるとき
虚しくてかなしくて涙を止めることができなかった

下の弟が
おくる言葉を読んだ
幼い時の思い出に
参列者はすすり泣いた

あとからあとから
彼女をしのぶ人たちが彼女に会いに来る
自分は何も持たず
他人に多くを与え
彼女は多くの人の心に残り
今はもう、平穏を得た

もう二度と、苦労することはない
100日の法要を済ませたけれど
まだ病院にいるような気がして
病院の前を通ると窓を見上げてしまう

さよならを言えなかったけれど
意識の戻ったあの最後の日を
孫娘は忘れません






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12月31日は祖母の命日です。
いまでも「もっともっと優しく大事にすればよかった」という後悔ばかりが
一年中、頭に浮かんできます。

4年になりますが、亡くなったことがまだ信じられません。
年の瀬に暗くてすみませんが・・・・


ええと・・・・。


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